こんにちは、株式会社アップリメイク代表取締役の齋藤直樹です。
古民家の購入や再生を検討している方の中には、「茅葺き屋根の維持費が思った以上に高い」「茅をすべて葺き替える予算までは用意できない」と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
茅葺き屋根は、日本の原風景を感じさせる美しさを持つ一方で、一般的なスレート屋根や金属屋根とは構造も維持方法も大きく異なります。
そこで候補に挙がりやすいのが、現在の茅を残したまま、その上を金属屋根で覆う「カバー工法」です。
既存の茅をすべて撤去しなくて済むなら、工事費や処分費を抑えられそうですよね。
工期も短くできそうですし、「これなら古民家再生の予算内に収まるかも」と期待されるのも無理はありません。
ただし、最初に大切な結論をお伝えすると、茅葺き屋根へのカバー工法は、技術的にまったく不可能な工事ではありません。
実際に、茅葺き屋根の上へ専用の骨組みや下地を設け、金属屋根で覆う改修方法は存在します。
その一方で、一般的なスレート屋根で行われるカバー工法と同じ感覚で、茅の上へ防水シートと金属板を被せればよいわけではありません。
建物の構造、茅の状態、小屋組みの強度、通気経路、結露対策、固定方法、雨仕舞いまで個別に検討した「茅葺き屋根専用の改修」でなければ、雨漏りや腐朽、強風による屋根材の浮きなどを招くおそれがあります。
また、古民家の状態によっては、茅を残すより、すべて撤去して下地から作り直す「葺き下ろし」の方が、長期的には安全で費用も抑えられる場合があります。
この記事では、茅葺き屋根にカバー工法ができる条件と避けるべき条件、想定される費用、施工前に確認すべきポイント、差し茅や葺き下ろしとの違いまで詳しく解説します。
「結局、自分の古民家にはどの方法が合っているのか」を判断する材料として、ぜひ最後まで読んでみてください。
記事のポイント
- 茅葺き屋根へのカバー工法が技術的に可能なケースと必要な条件
- 一般住宅向けのカバー工法をそのまま施工してはいけない理由
- 構造、通気、結露、雨漏り、耐風性で確認すべきポイント
- 表面的な工事費だけではわからない追加費用と将来負担
- 差し茅、全面葺き替え、専門カバー工法、葺き下ろしの違い
- 補助金や文化財制度を確認してから工事を進める重要性
茅葺き屋根にカバー工法はできるのか
茅葺き屋根に金属屋根を被せる工事は、技術的には可能です。
ただし、通常の住宅で行われる屋根カバー工法とは、下地の作り方も、必要な知識も、施工上の注意点も大きく異なります。
まずは「できるか、できないか」という二択ではなく、どのような工法であれば検討できるのかを知っておきましょう。
一般的なカバー工法と茅葺き屋根の専門改修は別物
一般的な屋根カバー工法は、既存のスレート屋根や金属屋根を残し、その上へ新しい防水シートと軽量な金属屋根材を施工する方法です。
既存屋根の表面が比較的平らで、下にある野地板へビスを固定できることを前提としています。
しかし、茅葺き屋根は表面が柔らかく、厚みや形状も均一ではありません。
茅自体へビスを打っても、金属屋根を長期間支えられる固定力は得られません。
そのため、茅葺き屋根を金属で覆う場合は、既存の小屋組みや垂木など、力を受けられる部分を確認したうえで、新しい木下地や金属下地を設ける必要があります。
さらに、茅と金属屋根の間へ適切な空間を確保し、湿気を排出するための通気経路や、万が一水が入り込んだ場合の排水経路も設計しなければなりません。
つまり、単純に「茅の上から金属板を被せる」のではなく、既存の屋根を包み込む新しい屋根構造を作るイメージに近い工事です。
【補足】茅葺き屋根のカバー工法という言葉に注意
同じ「カバー工法」という名称でも、業者によって想定している施工内容が異なることがあります。
茅の表面へ下地を直接押し付けるだけなのか、小屋組みへ荷重を伝える骨組みを新設するのか、通気層や防水層をどのように作るのかによって、安全性は大きく変わります。
見積書では工法名だけを見るのではなく、断面図や施工方法まで確認することが大切です。
初期費用を抑えやすいという魅力
茅葺き屋根の全面的な葺き替えや撤去には、多くの人手と時間が必要です。
屋根の勾配が急な場合や、重機を建物の近くまで入れられない立地では、茅を下ろす作業の多くを手作業で行わなければなりません。
撤去した茅に土、縄、竹、木材などが混ざっていれば、現場や処分先のルールに合わせた分別も必要になります。
そのため、既存の茅を残せる専門カバー工法は、茅の撤去費、運搬費、処分費を抑えられる可能性があります。
工事中に屋根が大きく開放される期間を短くしやすい点も、居住中の古民家ではメリットになるでしょう。
ただし、「撤去しないから必ず安い」とは限りません。
新しい屋根を固定する骨組み、通気層、防水シート、板金役物、棟換気、軒先や妻側の特殊加工などが必要になれば、一般住宅の屋根カバー工法より費用は高くなります。
既存の小屋組みに補強が必要な場合や、工事中に腐朽した部材が見つかった場合には、追加費用も発生します。
初期の見積金額だけで判断するのではなく、どこまでの調査、補強、防水、換気、処分費が含まれているのかを確認することが重要です。
カバー工法を検討できる主な条件
茅葺き屋根への専門カバー工法を検討するためには、少なくとも次のような条件を確認する必要があります。
小屋組み、梁、母屋、垂木などに、新しい屋根を支えられる強度がある
長期間続いている雨漏りや、広範囲の木部腐朽が確認されていない
金属屋根を確実に固定できる独立した下地や骨組みを設けられる
茅と新しい屋根の間に通気層や排湿経路を確保できる
軒先、棟、谷、壁際などの雨仕舞いを適切に納められる
建物全体の荷重や耐震性について専門家が確認している
文化財指定や景観条例などの制限を確認している
これらの条件を満たせるかどうかは、屋根の上から眺めるだけでは判断できません。
小屋裏へ入り、木材の変色、腐朽、虫害、雨染み、接合部、既存補強の状態を確認する必要があります。
可能であれば、含水状態の測定や、必要に応じた構造確認も行った方が安心です。
カバー工法を避けた方がよい主なケース
次のような状態では、茅を残して覆うより、茅の撤去や構造補修を優先した方がよい可能性があります。
- 屋根の複数箇所から雨漏りしている
- 茅が広範囲に崩れ、下地が露出している
- 小屋裏に強いカビ臭や腐朽臭がある
- 垂木、母屋、梁などに大きな腐食や虫害がある
- 屋根の一部が沈んでいる、波打っている
- 建物に大きな傾きや不同沈下が見られる
- 過去の増改築で荷重バランスが大きく変わっている
- 新しい下地を安全に固定できる場所が確保できない
- 文化財や景観上の理由から外観変更が制限されている
雨漏りの跡があるからといって、必ず構造材まで腐っているとは限りません。
しかし、表面だけを見て「まだ大丈夫」と判断するのも危険です。
見えない部分を確認し、補修してから覆うのか、茅を下ろして作り直すのかを決める必要があります。
茅葺き屋根に安易なカバー工法をおすすめしない理由
茅葺き屋根への金属屋根改修そのものが、すべて危険というわけではありません。
問題なのは、建物の状態を確認せず、一般住宅向けの方法をそのまま当てはめることです。
ここからは、設計や施工が不十分だった場合に起こり得る代表的なリスクを詳しく解説します。
追加荷重によって耐震性へ影響する可能性がある
地震時に建物へかかる力は、建物の重量や重心の位置と関係します。
一般的には、屋根を軽くすることは木造住宅の耐震性を高める方法の一つとされています。
そのため、現在の屋根を残したまま、新しい骨組み、防水層、金属屋根材を追加する場合は、その分の重量が建物へ加わることを考えなければなりません。
ただし、茅葺き屋根の重量は、茅の種類、厚み、含水状態、土の使用量、過去の補修内容によって異なります。
「茅葺き屋根は必ず瓦屋根より重い」「金属を被せると必ず倒壊する」と一律に判断することはできません。
大切なのは、既存屋根と新設する屋根の重量を確認し、柱、梁、接合部、耐力壁、基礎などを含めて建物全体で判断することです。
特に古民家は、現在の一般的な木造住宅とは異なる伝統構法で建てられていることがあります。
柱と梁の接合部、土壁、貫などが変形しながら地震の力を受け流す建物もあり、壁だけを部分的に固めたり、屋根へ重量を追加したりすると、元の力の流れを変えてしまうことがあります。
そのため、築年数が古い建物や大規模な古民家では、屋根業者だけで判断せず、伝統構法に詳しい建築士や構造の専門家と連携することが大切です。
【注意】重量だけで耐震性は判断できません
屋根の軽量化は耐震改修の一つですが、建物の安全性は壁量、接合部、基礎、腐朽、建物形状などにも左右されます。
茅を残す場合も撤去する場合も、屋根だけを見て耐震性を断定しないようにしましょう。
通気不足によって内部結露や腐朽が起こりやすくなる
茅葺き屋根は、多数の植物の茎を重ねた構造になっており、適切に維持されている状態では、内部に空気を含みながら湿気を吸ったり放出したりします。
かつての古民家では、囲炉裏の煙や熱も、茅の乾燥や防虫に役立ってきたといわれています。
一方、現在は囲炉裏を使わず、浴室、調理、暖房、加湿器などによって室内で水蒸気が発生する暮らしが一般的です。
天井や小屋裏の気密・断熱・換気が不十分な状態で、茅の上を通気性の低い防水層や金属屋根で覆うと、湿気の逃げ道が少なくなることがあります。
冬場などに金属屋根の裏面が冷やされ、暖かく湿った空気が触れると、結露が発生する可能性があります。
結露水が茅や木下地へ繰り返し触れ、乾きにくい状態が続けば、カビ、木材腐朽菌、金属部の腐食、シロアリ被害につながるおそれがあります。
ただし、金属屋根を施工すれば必ず内部結露が起こるわけではありません。
茅と新しい屋根の間に十分な通気空間を設け、軒先から空気を取り入れ、棟などから排出できる構造にすることで、リスクを抑えられる場合があります。
断熱材や防湿層を設ける場合も、どの位置に何を施工するかによって水蒸気の動きが変わります。
「防水シートを敷いたから安心」という単純な話ではなく、屋根全体の温度、湿気、換気を含めた設計が必要です。
屋根内部で結露が発生する原因や防水シートの役割については、屋根カバー工法で結露・雨漏りが起きる原因と対策でも詳しく解説しています。
◆齋藤のワンポイントアドバイス
屋根工事では、完成後に見えなくなる部分ほど大切です。
新しい金属屋根の見た目がきれいでも、その下にある茅や木材が乾かない構造になっていれば、数年後に大きな問題が見つかるかもしれません。
私たちアップリメイクは、亡き父から受け継いだ「お客様の幸せを第一に施工品質を考える」という姿勢を大切にしています。
そのため、表面だけを覆って終わりではなく、下地、雨仕舞い、通気、将来のメンテナンスまで確認したうえで、本当に建物のためになる方法を考えることが重要だと思っています。
金属屋根を固定する下地が不足すると強風に弱くなる
茅は柔らかく、場所によって密度や厚みが異なります。
そのため、茅そのものへ釘やビスを打っても、金属屋根を固定するための十分な保持力は期待できません。
台風や突風の際には、屋根材を上へ持ち上げようとする力が発生します。
特に軒先、棟、ケラバと呼ばれる屋根の端部は風の影響を受けやすく、下地や固定方法が不十分だと、金属板の浮き、変形、ビスの緩み、屋根材の飛散につながるおそれがあります。
安全な施工を行うには、新しく設ける下地から既存の小屋組みまで、力がどのように伝わるのかを考えなければなりません。
ビスの長さや本数を増やすだけでは解決できない問題です。
また、屋根の端部へ風が入り込まない納まりや、地域の基準風速、建物の高さ、周囲の地形も確認する必要があります。
海沿いや高台、周囲に遮る建物がない場所では、一般的な住宅より厳しい耐風対策が求められることもあります。
雨漏りが表面化するまで時間がかかる
茅葺き屋根の表面には自然な丸みや凹凸があります。
その上へ直線的な金属屋根を納めるためには、棟、軒先、谷、壁際、煙出し、下屋根との取り合いなどを、一つずつ現場に合わせて加工しなければなりません。
納まりが悪い箇所や防水処理が不十分な箇所があれば、強風を伴う雨の際に水が入り込むことがあります。
さらに、茅には水分を吸収する性質があるため、侵入した雨水がすぐ室内へ落ちてくるとは限りません。
室内の天井にシミが出るまで時間がかかり、その間に茅や木材が繰り返し濡れているケースも考えられます。
雨漏りの発見が遅れると、どこから水が入ったのかを特定するのも難しくなります。
金属屋根の一部だけを剥がして調査できない場合は、広い範囲を解体することになり、補修費用が高くなる可能性もあります。
カバー工法で起こりやすい施工不良や、契約前に確認しておきたいポイントについては、屋根カバー工法で後悔・失敗しないための落とし穴と対策も参考にしてください。
将来の点検や修理が難しくなる
茅を金属屋根で覆うと、工事後は茅の表面を直接確認できなくなります。
雨漏り、結露、害虫、木部腐朽などが起きても、外から見ただけではわからないケースがあります。
そのため、点検口を設ける、屋根裏から確認できる範囲を確保する、定期点検の方法を決めておくといった準備が必要です。
また、将来金属屋根を改修する際に、下にある茅を残したまま再び重ねることができるとは限りません。
金属屋根、木下地、防水シート、茅、竹、縄などを順番に解体し、分別して処分する必要が生じれば、将来の工事費は高くなる可能性があります。
現在の工事費だけでなく、次回の点検方法、補修方法、解体方法まで確認しておくことが、長く住み続けるためには欠かせません。
伝統的な外観や文化的価値が変わる
茅葺き屋根の魅力は、植物素材の柔らかな質感と、厚みのある独特な屋根形状にあります。
金属屋根で覆えば、茅の葺き肌は見えなくなり、建物の印象も大きく変わります。
雨漏り対策や維持費を優先して外観を変更すること自体が、間違いというわけではありません。
ただし、古民家を購入した理由が「茅葺きの姿を残したい」「宿泊施設や店舗として伝統的な雰囲気を活かしたい」というものであれば、工事後の外観を事前に確認した方がよいでしょう。
将来売却する可能性がある場合も、伝統的な茅葺きとしての価値を重視する買い手と、維持しやすい金属屋根を評価する買い手では、判断が異なります。
金属で覆えば必ず資産価値が下がるわけではありませんが、建物の魅力や利用目的が変わる可能性は理解しておく必要があります。
【注意】文化財や景観上重要な建物は事前相談が必要です
国、都道府県、市町村の文化財に指定・登録されている建物や、伝統的建造物群保存地区などにある建物では、屋根の材料や外観を変更する前に、許可や届出、行政との協議が必要になる場合があります。
工事契約を結ぶ前に、所在地の市区町村にある文化財担当部署や建築担当部署へ確認してください。
茅葺き屋根のカバー工法にかかる費用目安
茅葺き屋根の改修費用は、一般的な住宅以上に現場ごとの差が大きくなります。
屋根面積だけでなく、勾配、茅の厚み、建物の高さ、敷地条件、重機の使用可否、新設する骨組み、下地補強、通気方法、金属屋根材の種類などが金額に影響します。
そのため、全国共通の明確な定価や坪単価があるわけではありません。
専門的な金属屋根カバー工法の費用
一般的な30坪程度の古民家では、茅を残して金属屋根で覆う工事について、100万円から250万円程度の見積もりが提示されるケースがあります。
ただし、この金額はあくまで一つの目安です。
単純な形状で、下地の状態が良く、大きな構造補強を必要としない場合と、急勾配で複雑な屋根へ新しい骨組みを設ける場合とでは、同じ30坪でも費用は大きく変わります。
足場、荷揚げ、下地補強、棟換気、軒先加工、雨どい、板金役物、既存トタンの撤去などが別途計上されることもあります。
見積もりを比較するときは、総額だけでなく、含まれている工事範囲を確認してください。
全面的な茅の葺き替え費用
現在の茅を撤去し、新しい茅で全面的に葺き替える場合は、一般的な住宅でも300万円以上になることがあります。
大規模な建物、急勾配の屋根、複雑な形状、遠方からの材料調達、職人の長期滞在などが必要な場合は、1,000万円を超える可能性もあります。
ただし、茅の種類や地域の施工体制によって費用は大きく異なるため、具体的な金額は茅葺き職人による現地調査が必要です。
茅葺きとしての外観や文化的価値を維持したい場合には、費用だけでなく、施工できる職人の確保や将来の補修体制も確認しておきましょう。
茅を撤去して軽量屋根へ変更する費用
既存の茅をすべて撤去し、垂木、野地板、防水シートなどを必要に応じて新設したうえで、金属屋根などへ変更する工事を、本記事では「葺き下ろし」と呼びます。
30坪程度の古民家では、300万円から500万円以上になるケースがあります。
構造補強、断熱工事、雨どい交換、外壁との取り合い、天井補修などを同時に行えば、さらに費用が増える可能性があります。
初期費用は高くなりますが、腐朽した茅や下地を確認しながら撤去でき、新しい防水、断熱、換気計画を作り直せる点が大きなメリットです。
見積書で確認したい費用項目
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 足場・昇降設備 | 急勾配屋根用の屋根足場、飛散防止、荷揚げ設備まで含まれているか |
| 事前調査 | 小屋裏調査、木部の腐朽確認、含水状態、構造確認などが含まれているか |
| 新設下地・骨組み | どの部材へ固定し、どのように荷重を伝える設計なのか |
| 通気・換気 | 軒先から棟までの通気経路や換気部材が含まれているか |
| 防水工事 | 防水シートの種類、重ね幅、立ち上がり、役物部分の処理方法 |
| 下地補修 | 腐った垂木や母屋が見つかった場合の補修単価や追加工事の決め方 |
| 廃材処分 | 撤去する茅、木材、金属、土などの運搬・処分費が含まれているか |
| 保証・点検 | 雨漏り保証の対象範囲、免責事項、定期点検の時期と費用 |
「茅葺き屋根カバー工事 一式」としか書かれていない見積書では、何が含まれているのか判断できません。
新しい下地の材料や固定方法、通気層、防水シート、板金役物、補修範囲などを、できるだけ明確に記載してもらいましょう。
追加工事によって費用が増えるケース
事前調査が不十分なまま工事を始めると、足場を組んで屋根へ上がった段階で、想定以上の腐朽が見つかることがあります。
新しい下地を固定しようとしても、垂木や母屋が傷んでいれば、そのまま施工を続けることはできません。
腐朽した木材の交換、部分的な茅の撤去、小屋組みの補強などが必要になれば、当初の見積金額から大きく増える可能性があります。
工事を始めた後では屋根を開放したままにできないため、施主様が追加工事を断りにくくなる点にも注意が必要です。
契約前に、追加工事が必要になった場合の単価、承認方法、工事を中断する条件まで書面で確認しておきましょう。
将来の解体・処分費まで考える
金属屋根には定期的な点検やメンテナンスが必要です。
将来、金属屋根を張り替える時期が来た際に、下に残した茅の状態が良ければ、部分的な補修で対応できる可能性もあります。
一方で、茅や木下地が広範囲に傷んでいれば、金属屋根と下地を撤去した後、茅まで下ろす大規模工事になるかもしれません。
その場合は、金属、木材、防水シート、植物性材料などを分別しながら撤去するため、初回工事より解体費が高くなる可能性があります。
住宅の工事費は、今支払う金額だけで判断するものではありません。
10年後、20年後にどのような点検や補修が必要になるのか、建物を将来誰が引き継ぐのかまで考えて選びましょう。
【ポイント】長期的な維持費で比較しましょう
初期費用が安くても、定期点検が難しい工法や、将来の解体費が高くなる工法では、長期的な負担が増えることがあります。
反対に、初期費用が高くても、構造や下地を一度確認し、修理しやすい状態にできれば、将来の安心につながります。
見積もりを比較するときは、初期費用、点検費、補修費、将来の解体費を含めて考えてください。
茅葺き屋根で選べる4つの改修方法
茅葺き屋根の改修方法は、カバー工法と葺き下ろしだけではありません。
屋根の傷み具合、建物の使い方、予算、残したい外観、今後住む年数によって、適切な方法は変わります。
差し茅による部分補修
傷みが局所的で、屋根全体の状態が比較的良い場合は、「差し茅」で補修できる可能性があります。
差し茅とは、傷んだ部分へ新しい茅を差し込み、屋根の厚みや水の流れを回復させる方法です。
全面的な葺き替えに比べて費用を抑えやすく、茅葺きらしい外観も維持できます。
ただし、内部まで広く傷んでいる屋根を表面だけ補修しても、十分な効果は得られません。
差し茅で何年維持できるかは、茅の種類、勾配、日当たり、風通し、傷み方によって異なります。
「差し茅をすれば必ず5年、10年持つ」とは限らないため、茅葺き職人に屋根全体を見てもらいましょう。
新しい茅による全面葺き替え
伝統的な外観や文化的価値を残したい場合は、現在の茅を撤去し、新しい茅で葺き替える方法が基本です。
茅葺き本来の断熱性、調湿性、外観を維持できる点が最大のメリットです。
一方で、材料の調達、職人の確保、定期的な部分補修が必要であり、維持費も考えておかなければなりません。
宿泊施設、飲食店、文化的な活用を予定している建物では、茅葺きの外観自体が大きな価値になることがあります。
金額だけで決めず、建物をどのように使っていきたいのかを考えることが大切です。
茅を残す専門的な金属屋根改修
茅葺きとして維持する費用を負担するのが難しく、現在の茅をすべて撤去することも避けたい場合は、専門的な金属屋根改修が候補になります。
適切な骨組み、固定下地、通気層、防水層を設けられる建物であれば、雨仕舞いを改善しながら、茅の撤去費を抑えられる可能性があります。
ただし、施工できる業者は限られます。
一般的な屋根カバー工法の経験だけではなく、古民家、小屋組み、建築板金、換気、雨仕舞いについての知識が必要です。
過去の施工写真だけでなく、屋根内部の構造がわかる断面図や、どのように固定したかを説明してもらいましょう。
茅を撤去して下地から作り直す葺き下ろし
茅や木下地の傷みが進んでいる場合や、耐震、断熱、防水をまとめて改善したい場合は、葺き下ろしが有力な選択肢です。
既存の茅を下ろすことで、隠れていた垂木、母屋、梁などの状態を確認できます。
腐朽した木材を交換し、必要な構造補強を行ったうえで、野地板、防水シート、断熱材、通気層を新しく作り直せます。
新しい屋根材としては、軽量な金属屋根が選ばれることが多いですが、建物の外観や構造によっては軽量瓦などを検討できる場合もあります。
金属屋根は粘土瓦より軽い傾向がありますが、茅葺き屋根からどの程度軽量化できるかは、既存屋根の状態や新しい下地の仕様によって異なります。
必ず現況と改修後の重量を比較し、構造面から判断しましょう。
| 改修方法 | 向いているケース | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 差し茅 | 傷みが部分的で、茅葺きの外観を残したい | 内部まで傷んでいる場合は十分な補修にならない |
| 全面葺き替え | 伝統的な外観や文化的価値を維持したい | 初期費用、材料調達、職人確保、定期補修が必要 |
| 専門カバー工法 | 茅の撤去を避けながら雨仕舞いを改善したい | 構造、固定下地、通気、防水の専門設計が必要 |
| 葺き下ろし | 茅や下地の傷みが進み、耐震・断熱・防水も改善したい | 撤去、処分、下地造作に大きな費用がかかる |
一般住宅における葺き替えとカバー工法の違いについては、屋根の葺き替えとカバー工法はどちらがよいかを比較した記事も参考にしてください。
ただし、茅葺き屋根は一般的なスレート屋根と条件が異なるため、最終的には古民家の現地調査が必要です。
工事を決める前に確認すべき8つのポイント
茅葺き屋根の改修では、見積金額だけを比較しても、適切な業者や工法を選ぶことはできません。
契約前に、次の8項目を確認しておきましょう。
1. 小屋裏まで調査しているか
屋根の表面だけを見て、「カバー工法で大丈夫です」と即答する業者には注意が必要です。
小屋裏へ入り、梁、母屋、垂木、竹、縄、雨染み、カビ、虫害などを確認してもらいましょう。
2. 新しい屋根をどこへ固定するのか
「長いビスで固定します」という説明だけでは不十分です。
ビスがどの構造材へ届き、風や地震の力をどのように建物へ伝えるのかを確認してください。
3. 茅と金属屋根の間に通気経路があるか
空間を作るだけでなく、空気の入口と出口が必要です。
軒先から取り入れた空気を棟から排出できるのか、虫や雨の侵入をどのように防ぐのかまで確認しましょう。
4. 雨水が入った場合の排水方法があるか
屋根材の下へ水が入らない施工が基本ですが、強風や経年劣化による侵入も想定しなければなりません。
防水シートの上へ入った水が、軒先まで排出される構造になっているかが大切です。
5. 構造や耐震性を確認しているか
古民家の構造を確認せず、「金属屋根だから軽いので問題ありません」と判断することはできません。
必要に応じて建築士と連携し、現在の屋根重量と改修後の荷重、建物の劣化状態を確認してもらいましょう。
6. 追加工事の条件が明確か
下地を開けた後に腐朽が見つかった場合、どの範囲まで基本工事に含まれるのかを確認します。
追加料金が発生する条件、単価、写真報告、施主の承認方法を契約書や見積書へ記載してもらうと安心です。
7. 保証の対象と免責事項が明確か
「10年保証」と書かれていても、屋根材だけの保証なのか、雨漏りまで対象なのかで意味が変わります。
既存の茅や小屋組みが原因となる雨漏りは保証対象外になる場合もあります。
保証期間だけでなく、対象範囲と定期点検の条件を確認してください。
8. 将来の点検や解体方法を説明できるか
施工後にどこから屋根内部を確認するのか、金属屋根を補修する際にどこまで剥がすのかを聞いておきましょう。
将来の工事まで具体的に説明できる業者は、目先の施工だけでなく、建物全体を考えている可能性が高いといえます。
【注意】極端に安い見積もりは内容を確認しましょう
他社より大幅に安い場合、新設下地、通気部材、防水役物、構造補強、廃材処分、保証などが含まれていない可能性があります。
反対に高額であっても、内容が「一式」ばかりでは適正とは判断できません。
少なくとも3社程度から見積もりを取り、金額ではなく調査内容と工事範囲を比較することをおすすめします。
補助金や減税制度を確認してから着工する
茅葺き屋根の改修は高額になりやすいため、補助金や助成金を利用できないか気になる方も多いと思います。
2026年時点で、茅葺き屋根を金属屋根へ変更すれば一律で受け取れる国の補助金があるわけではありません。
ただし、工事内容によっては、次のような制度の対象になる可能性があります。
- 木造住宅の耐震診断や耐震改修に関する自治体の補助制度
- 屋根や天井の断熱改修を含む省エネリフォーム支援制度
- 空き家の取得や改修を支援する移住・定住促進制度
- 古民家や歴史的建造物の保存・活用に関する制度
- 文化財に指定・登録されている建物の保存修理制度
屋根を軽くする工事であっても、耐震診断や所定の補強工事を行わなければ、耐震改修の補助対象にならないことがあります。
断熱材を入れる場合も、断熱材の性能、施工範囲、対象となる必須工事、施工業者の登録など、制度ごとの条件があります。
また、多くの制度では、契約や着工の前に申請や事前相談が必要です。
工事を始めた後に制度を知っても、対象外になる可能性があります。
補助金を利用したい場合は、見積もりを取る段階で自治体や制度窓口へ相談し、申請条件と着工可能日を確認してください。
屋根葺き替えに関する制度の探し方や注意点については、屋根葺き替えの補助金・助成金と自治体制度の調べ方でも詳しく解説しています。
制度は年度、自治体、予算残額によって変更・終了するため、必ず公式情報で最新の条件を確認しましょう。
茅葺き屋根の改修に関するよくある質問
Q1. 茅葺き屋根には絶対にカバー工法をしてはいけませんか?
A. 絶対に施工できないわけではありません。
茅葺き屋根の上に専用の骨組みや通気層を設け、金属屋根で覆う専門的な改修方法は存在します。
ただし、一般的なスレート屋根と同じ方法で、茅の上へ直接防水シートや金属板を固定する工事はおすすめできません。
小屋組みの強度、下地の固定方法、通気、防水、耐風性を確認したうえで判断する必要があります。
Q2. 全体的に傷んでいない場合は、差し茅で様子を見られますか?
A. 傷みが部分的であれば、差し茅で補修できる可能性があります。
差し茅は、傷んだ部分へ新しい茅を補充し、厚みや水の流れを回復させる方法です。
ただし、表面から見える範囲より内部の傷みが広がっている場合もあります。
補修できる範囲や維持できる期間は屋根の状態によって異なるため、茅葺き職人による調査を受けてください。
Q3. 雨漏りの跡があれば、下地は腐っていますか?
A. 雨染みがあるからといって、必ず構造材まで腐っているとは限りません。
一時的な雨漏りや、すでに補修された跡である可能性もあります。
ただし、長期間濡れた状態が続いていれば、茅、垂木、母屋、梁などが傷んでいるおそれがあります。
木材の変色だけで判断せず、触診、打診、含水状態なども含めて確認することが大切です。
Q4. 金属屋根で覆えば内部結露は必ず起こりますか?
A. 必ず起こるわけではありません。
茅と金属屋根の間に適切な通気層を設け、湿気の入口と出口を確保できれば、結露リスクを抑えられる場合があります。
一方で、湿気の逃げ道がない状態で密閉すると、結露や腐朽が起こりやすくなります。
屋根材だけでなく、天井、小屋裏、断熱材、防湿層を含めた計画が必要です。
Q5. 葺き下ろしでは金属屋根以外も選べますか?
A. 建物の構造や予算に合えば、軽量瓦などを検討できる場合があります。
ただし、屋根材によって重量、費用、耐久性、断熱性、外観、必要な勾配が異なります。
古民家らしい外観を重視するのか、軽量化や費用を優先するのかによって適切な材料は変わります。
屋根材の重さだけで決めず、下地、防水、換気、将来のメンテナンスまで比較しましょう。
Q6. 補助金の申請は施工業者へ任せられますか?
A. 制度によって異なります。
登録事業者が申請を行う制度もあれば、建物所有者が自治体へ申請する制度、建築士の書類が必要になる制度もあります。
施工業者がどこまで支援できるかは会社によって異なるため、契約前に確認してください。
申請前や交付決定前に契約・着工すると対象外になる場合があるため、必ず制度窓口の案内を優先しましょう。
茅葺き屋根の改修は「覆えるか」ではなく「安全に維持できるか」で判断しましょう
茅葺き屋根に金属屋根を被せる工事は、技術的に不可能なものではありません。
しかし、一般的な屋根カバー工法をそのまま茅葺き屋根へ転用することはできません。
新しい屋根を固定する骨組み、通気層、防水層、雨仕舞い、耐風性、構造への荷重まで、建物ごとに検討する必要があります。
今回の記事で、特に覚えておいていただきたいポイントをまとめます。
専門的なカバー工法は存在する:適切な骨組み、固定下地、通気、防水を設けられる建物では、金属屋根で覆う改修を検討できる場合があります。
一般住宅向け工法の転用は避ける:茅へ直接固定するだけの施工では、屋根材の浮き、雨漏り、結露、腐朽などにつながるおそれがあります。
小屋裏と構造の調査が欠かせない:茅の表面だけでなく、梁、母屋、垂木、接合部、雨漏り、虫害まで確認してから工法を選びましょう。
改修方法は一つではない:差し茅、全面葺き替え、専門カバー工法、葺き下ろしを、予算と将来計画に合わせて比較することが大切です。
初期費用だけで決めない:定期点検、補修、保証、将来の解体処分まで含めた長期的な費用で判断してください。
補助制度は着工前に確認する:耐震、省エネ、空き家、文化財などの制度を利用できる可能性がありますが、条件や申請時期は制度ごとに異なります。
茅葺き屋根は、同じ築年数、同じ広さであっても、一棟ごとに状態が違います。
写真や建物の坪数だけで、「カバー工法で大丈夫」「全面撤去しかない」と決めることはできません。
まず必要なのは、現在の茅、木下地、小屋組み、雨漏り、建物全体の状態を正確に知ることです。
アップリメイクは、1973年の創業以来、地元静岡で屋根・外壁を含む住まいの工事に携わってきました。
施工実績は6,000件以上となっていますが、過去の実績だけで工法を決めつけるのではなく、目の前にある一棟を丁寧に診断することを大切にしています。
茅葺き屋根の改修について当社だけで判断できない場合には、建築士や専門職人との連携が必要になることもあります。
無理に工事をおすすめするのではなく、現在の建物にとってどの方法が現実的なのかを考えることが、結果としてご家族と大切な資産を守ることにつながります。
実際の仕上がりや工事内容を確認したい方は、アップリメイクの施工事例も参考にしてください。
業者選びで迷っている方は、工事を依頼された方の率直な感想を掲載しているお客様の声もご覧いただけます。
屋根の雨漏り、木部の傷み、改修費用などについて不安がある場合は、工事を決める前の段階でも大丈夫です。
「金属屋根で覆えるか知りたい」「茅を残すべきか撤去すべきか迷っている」といったご相談から、お気軽にお問い合わせください。
まずは現在の状態を確認し、今すぐ必要な工事と、将来まで待てる工事を一緒に考えていきましょう。








